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与混合気圧縮着火型極小ピストン機関の 性能向上に関する研究開発 |
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2004年6月 模型航空研究所 古崎仁一 | ||||||||||
概説 おおむね10cc以下の行程容積を有する極小ピストン機関は従来模型航空機用に製造され発達してきたが、これらはほとんどが白金合金フィラメントのグロープラグを用いてメタノール系燃料を燃焼させるグローエンジンである。模航研では以前からグロー式点火に依存しない圧縮熱のみで着火運転できるディーゼルエンジン(与混合気型)の開発を続けて来た。2004年現在、従来の三孔型2ストロークのみならず世界的にも類がない4ストローク形式での運転にも成功している。 与混合気圧縮着火方式 模型エンジンでは60年の歴史があるこの方式が近年実機機関で注目され、低公害と省エネの観点から研究が進められている。模型のような極小サイズのエンジンでは極端に容易な取扱いと高い出力密度が求められ、実用化にはなかなか困難な側面もあるが、現状の技術でも他の形式のエンジンに比べて高トルク低燃費と言った特性が確認されている。実機の直噴式(無気噴射)に比べて、与混合気圧縮着火方式は簡便な機構で済む反面、燃料を気化させるためにエチルエーテルを混入しなければならない制約もある。しかしこの方式には隠れた利点もあり、それは起動トルク特性がガソリン機関以上であるため直噴式には不可欠な調速器(ガバナー)が不要になる。 真に実用的な極小ディーゼル機関が実現されると模型航空機の性能向上ばかりでなく様々な用途への応用が考えられる。動力付き自転車、動力車椅子など人員輸送機器の小型化、刈り払い機やチェーンソー、発電機などの小型化、さらには油圧機構との組み合わせで、屋外で長時間活動するヒューマノイド型ロボットの動力にも使えることだろう。 研究の手法 これまでは模型飛行機に適した性能を向上させることが目的であったため、数値的な評価より実用性能で評価してきた経緯がある。すなわち、以下のような要素をそれぞれの特定エンジンごとに改良して実際に飛行させることで成否を判断して来たわけである。しかしながら、試験に用いる飛行機の性能要求が高まるにつれ付帯的な研究も求められている。一般的に、限られた行程容積で出力を向上させるには回転数を上げるのが手っ取り早い。その結果模型グローエンジンでは2,5cc、40000rpmで2,7PSといった極端な性能まで到達したが、こんな動力は他には使えないものだから、実用エンジン開発の出発点は回転数を上げずに出力を向上させることだった。 性能を向上させる開発要件 回転数を上げずにパワーを得ようとすると正味平均有効圧力を向上させるしかなく、それにはディーゼルエンジンが、ということになる。しかし、そのためのには定常な圧縮状態の確保という絶対条件があり、まがりなりにもこれをクリアーするために十数年の試験期間が必要だった。 1、ピストンとシリンダー 十分な圧縮を保つためにピストンとシリンダー間には高度な気密性が要求される。実機機関ではピストンリングを適宜用いることで容易に解決できるが、極小機関ではピストンリングを複数用いるとリング自体の圧着力が大きな摩擦損失を生じる上、リング底部の隙間から圧力漏れが起こり結果的に性能低下をもたらしてしまう。このため「リングを用いないピストン」の開発が必要で、現在複合材ピストンの採用で一応の解決が見られているものの引き続き開発試験が必要である。 2、燃焼室形状 これは主に4ストロークディーゼルの問題で、現用の試験エンジンは市販グローエンジンを改造したものであるため燃焼室形状の系統だった比較試験ができてはいない。ある試験エンジンを元にシリンダーヘッドを実際に作って試験する必要がある。この場合の改良点は燃焼室形状の他に吸気ポート形状も変化させ、シリンダー内部に混合気の渦巻き(スワール)を起こして混合気の撹拌を計ることも含まれる。 3、気化器の改良 模型ディーゼル燃料は主に灯油、エーテル、潤滑油の混合からなっていて潤滑油の分量が極端に多い(20〜30%)ため気化器で、完全には気化できず、実質的に霧化状態で気筒に供給されている。燃費を良くするためには気化を促進しなければならないが、単に気化器の改良のみならずオイル分を少なくする工夫も必要である。当面の改良はスロットル弁の開度に応じた混合気調節能力と高空補償能力を持たせることである。 4、燃料技術 ここでの要因は主燃料である炭化水素化合物の選定と潤滑油の選択である。主燃料は灯油、軽油、流動パラフィン、ケロシン、「jet-A」、「ランプオイル」、GTL軽油など。潤滑油はひまし油系の他、多岐に渡る合成油がある。主燃料は燃焼効率が良く、カーボン付着が少ない物が良い。 研究課題 これまでは市販模型エンジンの改良という観点から述べたのであるが、そのような物に頼らない独自な極小機関の製作について必要な課題を挙げてみる。 1、分離潤滑供給 模型エンジンでは4ストローク形式でも分離潤滑方式ではない。実機機関に見られる通り、オイルを別に供給できれば燃費の低減が計れる。しかし必要な部分にオイルを供給する技術以前に前述のピストンシリンダーの密閉性の問題がある。簡単な試験の結果、単純な分離供給ではピストンの密閉性が保たれずかえって性能低下することが分かった。この課題はピストンの密閉性を向上させる研究とリンクして考えられるべきである。 2、排気弁の冷却 この理由は耐熱性向上のためでなく、希薄混合気運転(リーンバーン)時の燃焼変動を防止するためとカーボンの堆積を防ぐためである。燃焼変動はトルク変動をもたらし、ただでさえ振動が大きい単気筒エンジンの振動を助長して、機材の耐久性を悪くしてしまう。また、長時間運転される場合はできるだけカーボンの付着を避けなければならない。万一堆積物が弁に挟まるとエンジン停止を誘いかねない。
3、過給機とマスターコントロール これも実機航空機関で確立した技術であるから極小ディーゼルに応用するのは単に設計の問題だけと考えられる。図1ではごく単純に設計された機械式過給機(スーパーチャージャー)を示す。このモデルでは若干の過給効果と混合気撹拌効果による燃焼の改善が認められた。過給機の入り口に燃料噴射孔を設ければマスターコントロール(圧力噴射式気化器)になるのだが実際にはスロットル弁の開度に応じた適正な噴射量を演算して供給するシステムがかなり煩雑になると思われる。 4、代替燃料
新型機関の可能性
1、ユニフロー(一方掃気)型2ストロークディーゼル。 図3は以前試作した同形式のモデルで二個の排気弁と頭上カム軸を持つ。これはグローエンジンとして試作されたものであるが、グロー運転でも良好な始動性と大きな低速トルク特性が確認されている。この形式は模型では例がなく富塚博士の著書では絶賛されている形式でもあり、成功の可能性が大きいと考えられるが、実機では熱負荷の克服が困難であるため成功例が少ない。 2、気筒給気型4ストロークディーゼル
3、回転ピストンカム(Cam-Axial)エンジン これはアメリカのBrayton Paul氏の特許エンジンで、プロペラ軸の周りを回転しながら往複動するピストンによって軸が駆動される。現在特許期限切れと思われるが、現物を運転したことがないので性能の詳細は不明である。1回転で2回爆発することとクランクピンにかかる変動荷重がなくピストンに側圧もかからないため、燃焼変動を起こしがちなディーゼル運転には適していると思われる。
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