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 エンジンコレクションとは何か 2005年 7月 古崎仁一
 凡そ収集の対称にならない物は無いと言われているほど、人は収集好きなものである。しかしその対象は時代の流行に左右される。例えば、ひと頃盛んだった郵便切手の収集が、昨今ではさほど人気がないらしい。今では手紙そのものを書く人が少ないのだから附随する切手の有り難みも薄れようと言うものだ。

1 山中氏の遺影の前の奥様とエンジンの箱。
 模型エンジン収集もその例に漏れず、と言うか、もともと一般的な収集趣味とは一線を画しているからこれを趣味とする人は多く無い。しかも今日では模型飛行機の動力としての電動モーターが隆盛を極めているからその分エンジンの使用頻度は下降しつつある。そんな中で、この日本にもエンジン収集家が存在するのはなぜだろう。推測するに何か曰く言い難い悦楽があるに違い無い。筆者が知り合ったある収集家を通して、思いをめぐらせてみよう。

 その前提として何を持ってコレクターと言い得るか、あるいはコレクターとはどういう人を指すのか、いささか異論があることだろう。今回の主人公である山中治雄氏は、自分ではコレクターではないと言っていたので彼はコレクターでは無いかも知れない。しかしよく話を聞くと1000台ほど所有しているとのこと。エンジンが好きで買って、回して楽しんでいるうちに溜ってしまったのだそうである。
 ある定義によるとどんなものでも1000点を超えればいっぱしのコレクションであると言う。それなら立派なコレクターではあるまいか。

2 小型エンジンの収蔵。
 山中氏は模航研にディーゼルエンジンの修理や改造を依頼され、筆者の仕事の仕上がりを楽しみにしてくれていたのだが、惜しくも昨年、喘息の悪化により急逝されてしまった。退職のわずか一年後である。

 生前に交わした電話でのやりとりの中で、小学校の教頭という在職中に人間関係で苦労させられ心落ち着く暇もなかったとか、模型エンジンに代表されるホビー文化というものが世間ではさして認められていないことを嘆いたりされていて、筆者ともども大いに共感していたのだったが、いろいろ尋ねても実際に模型を製作したり運用することはなさそうな様子なので、本当の所、何が楽しいのか良く分からなかった。
 そこで、亡くなって一年になるのを機に御自宅を訪問してどのようにエンジンを楽しんでおられたかを奥様に取材してきた。

 お宅に伺うと遺影の前に箱入りのエンジンがうず高く積まれている。聞けば、箱入りの状態でないと中古価格が良くならないと言われていて、わざわざ整理してくださったとのことであった。そこで、来訪の目的を説明してどのように楽しんでいたのかお尋ねした。その話によると親戚の方が模型飛行機を飛ばしていてその影響でエンジンに興味を持って集め始めたとのこと。
3 茶箪笥前の御遺族。
 新しいエンジンを購入すると、そのエンジンのどこがいいのか楽しそうに語られたそうである。しかし、遺憾ながらと言うか、当然と言うべきか、その内容は覚えておられていないようであった。筆者は、山中氏が実際にエンジンを回していたと思い込んでいたものだから、そのような場所が有るのか無いのかお尋ねしたのだが、心当たりないという。本人の話とは違って実際にはエンジンを回すことはなかったのだろうか。腑に落ちない思いで、無理を言って茶の間に案内してもらうと別の意味で興味をそそる物があるではないか。茶だんす収蔵だ。
 以前、坂戸に住んでいた澤部氏の部屋で見かけたそれと酷似した状態であった。一台一台ビニール袋に入れられているのはエンジンから漏れ出す防錆油が茶だんすを汚さない配慮であり、その訳はリラックスできる場所でゆっくりエンジンを眺めたいという嗜好そのものである。
 そこには様々なエンジンに混じってきれいに補修されたアンダーソン-スピットファイヤーとデュアルイグニッションのスーパーサイクロンがあった。手にとって真近にみると、近年の、性能一辺倒のモデルとは異なった実機航空機関の影響によるある種の風格が感じられる。

 奥様の話などから推察すると山中氏は、エンジンをたくさん購入したが、何か特定の意図あるコレクションの完成を目指していたようには思えない。つまり、特定の品の入手をめざして仲間内で競い合ったり、飽きがきたモデルを中古市場で処分することは好まなかったようである。自分が生きた戦後時代に製造販売されたエンジンをいわばリアルタイムに買い続けたのだった。そのおかげで筆者が昔使って消耗廃棄したKO15やフジ099にいわば再会できたのである。

4 茶箪笥収蔵の一部。ENYAタイフーン63、60、15Dなど古い国産エンジンが見える。
 今回の訪問では実際にエンジンを回した痕跡は確認できなかった。しかし、未整理のエンジンがまだかなりあるそうで、事実、筆者が修理したOS15Dやごく少数しか売れなかったJIN1.8レーシングエンジンの所在は確認できなかったから、やっぱり、エンジンを運転していた故人しか知らない秘密の場所があると信じたい。

 記事はここで終わりにしたいのだが、現実的な問題が残されている。この多量のエンジンの処遇である。未亡人は売却したい意向であるが、それには時価総額を適正に評価する必要がある。残念ながら筆者はその任に適さない。その価値を確定させるために、例えば「なんでも鑑定団」に応募することも考えておられるそうだ。

 御遺族は一括購入してくれることを望んでいるのでそういう意図がある方は模航研まで連絡いただきたい。
5 所蔵の『新古品』エンジン。

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模航研  長野県小諸市大字諸308-1