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ディーゼルエンジンを見直そう     
ENYA11CXDの使い方 古崎仁一

 はじめに
 モデルディーゼルエンジンは第二次世界大戦中にヨーロッパで発明されたというのが通説ですが詳しい事は分かりません。
 模型の場合正しくは予混合気圧縮着火方式と呼ばれるもので、トラックのエンジンなどに用いられている直噴ディーゼルとは異なります。そのためディーゼルエンジンではないと言う人もいます。しかし、ルドルフ-ディ−ゼルが開発した最初のものは空気噴射式であったことですし、今日の、代替燃料によるディーゼルエンジンの研究では模型と同じ圧縮着火方式も用いられているのでディーゼルエンジンと呼んで差し支えないと思われます。
FAI F2C競技用のディーゼルエンジンは長年の改良により極端な性能を発揮するようになりましたが、スポーツフライトに用いられるR/Cディーゼルはまだ発展途上にあるのが現状です。

 モデルディーゼルの性質
 モデルディーゼルでは圧縮熱だけで混合気に着火させるのですからグローエンジン以上に圧縮をあげる必要があります。そのためピストンとシリンダーの隙間をより少なくすることが求められます。このためエンジンが飲み過ぎ状態になり易く液体ノックを起こす事もあるので電動スターターによる始動には注意が必要です。
 一般に、ディーゼルはトルクがあってより大きなサイズのプロペラが使えます。また、圧縮が高いために始動時に早期点火による「ケッチン」を食らうと思われ勝ちですが、作動原理を考えて見れば分かるように、実際には上死点前に点火することがないため一部の4ストエンジンに見られるようなひどい「ケッチン」は起こらず単に強いコンプレッションを感じるだけです。
旧世代の鉄ピストンディーゼルと今日のアルミラップピストンディーゼルとは性格が異なりますので、それに応じた取り扱いが求められますが、圧縮ネジとニードルバルブの調整で幅広い条件に適合させられるディーゼルエンジンはオペレーションそのものを楽しむことができます。
 古崎は長年ディーゼルエンジンでR/C機を飛ばしていますが、始動電池なしでエンジンを回せるというのは大きな利点だと思います。

 ディーゼル燃料について
 モデルディーゼルは割合大雑把なエンジンで、ただ回るだけならいろいろな配合が使えます。一番単純なのはモータサイクル用鉱物性エンジンオイルとエチルエーテルを1:1に混ぜたもので、これでそこそこのパワーが出ます。しかし、R/C飛行機を安全に飛ばすためには始動性が良くスローが利く性能が不可欠であるため、専用の配合が求められます。これまでは旧ミスターディーゼルの配合によるひまし油25%のMD25ディーゼル燃料を主に使って来ました。これはIPN(イソプロピルナイトレイト、和名硝酸イソプロピル)が2%含まれていてたいていのモデルに適合できるのですが、5cc以上の大型ディーゼルエンジンに用いるとヒート気味になります。
 添加剤のIPNは燃料の着火性を良くして始動性を向上させ、出力もアップしますが、反面エンジンの運転温度を高くしたり燃焼ガスによる金属の腐食をもたらします。そこで模航研ではアルミラップピストンの大型エンジン用に、IPNの代わりに別の添加剤を用いたRCDディーゼル燃料を開発しました。
 この燃料にもひまし油が25%入っています。レーシングディーゼルには耐熱性が高い合成油5%のものが使われますが、10.000rpm以下でトルクを出させるR/C用ではどうしてもひまし油がこれだけ必要です。外誌には30%以上入れるという記事さえありました。ひまし油は自然界で容易に分解されるエコロジカルなオイルですからあえて減らす必要はないと思います。性能的にはIPN入りに比べて数百回転劣りますが、あまり臭くなく、添加剤のせいで燃料全体の粘性が低下してキャブからの吸入が良くなりますし、低温でも流れが疎外されずニードルを絞り切る事ができます。
 他に、ブレークイン用としてひまし油を30%入れたC-30も用意しました。これは鉄ピストンエンジンを長もちさせる効果があるので低速用としても好適です。

 ENYA11CXD

写真1 
 この度塩谷製作所からR/Cディーゼルが発売されたのでこれを例にしてディーゼルエンジンの使い方を解説します。 このエンジンは旧来の鉄ピストンディーゼルよりは扱い易いのですが、取扱いに関してはディーゼルの専門性を良く理解して根気良く回してください。
 通常はエンジンを正立にマウントしますが実はディーゼルエンジンにとってはあまり良いマウントではありません。倒立が良いのですが、マフラーにたまった廃出油が逆流する事があるので、写真1のようなサイドマウントをお勧めします。長時間ブレークインする必要がないのでいきなり機体に取り付けて(サイドマウント)かまいません。

 燃料パイプ

写真2
 配管にはシリコンチューブは使えません。ガソリンエンジン用に市販されているものを使います。写真2は左からピンクのビニールチューブ、黒のニトリルゴム、黄色のタイゴンチューブで、一番耐久性が高いのがタイゴンチューブです。ニトリルゴムをタンク内配管に用いる時は必ず針金で縛り付けてください。そうしないとふくらんで抜ける事があります。

 最初の始動

写真3
 ディーゼルの経験のない人が新品のエンジンを初めて始動させるときは、まずマフラーを取り付けないで運転します。燃料を入れてからニードルバルブを閉め切ってタンクからの飲み過ぎを防ぎます。キャブと排気孔から数滴ずつ燃料をプライミングします。ヘッドを下にしてクランクすると爆発が確認できます。もし飲み過ぎになってピストンがロックしたら排気孔から余分なオイルを排出するようにして、圧縮ネジ(コンプレッションスクリューとかトミ−バーとか言う)は動かさないようにします。
 次にニードルを3回ほど開きます。スロットルを半開きにしてチョークしてから手で強くクランクして始動させます。ディーゼルエンジンとの付き合いの基本はハンドスタートでありまして、エンジンが手で掛かる状態になっていないと電動スターターでも掛けられません。
 始動の要領に慣れてスターターを使う場合でも、スターターを当てる時間は一秒以内にして、ハンドフリップに近い力を与えるようにします。ディーゼルの場合はスターターを回し続けても始動できません。チョークをくり返しても爆発が起こらない場合は圧縮ネジを八分の一回ずつ締めていきますが、始動して暖気が進むと元の位置まで戻すようになるので、できるだけネジは締めないようにし、オーバ−チョーク気味にして圧縮をかけるのがこつです。スターターは小型のものが適します。(写真3参照)


写真4

写真5
 始動直後は燃料の吸入が悪いのでニードルは絞れません。スロットル全開で回り続けるようになってからニードルを絞り圧縮を合わせます。スロットル全開でのピークの合わせ方は、圧縮ネジを締め気味にした状態で完全に暖気させた後(20秒ほど)でニードルを絞りながら圧縮を下げていきます。ニードルを絞り切ったうえ、止まる寸前まで圧縮を下げたところが回転のピークですが、その状態ではスローでエンストするので飛ばせません。
 圧縮が高すぎると割れるような音がして回転が苦しそうになりますし、下げ過ぎると頼り無い音になるのですぐ分かります。また、ディーゼルのニードルセットでは回転のピークが出てからかなり絞れます。絞り過ぎたらピークまで戻してその位置で圧縮を再調整します。
 スロットルレスポンスを重視するセッティングは圧縮ネジをそこより少し絞り込み、ニードルは逆に少し開けた位置にあります。ニードルが決まったらスロー調整をします。エアブリードの合わせ方はグローエンジンと同様に行いますが、MD25燃料では開き気味でRCD燃料では閉めるようになります。
 ストックの11CXDエンジンの圧縮ネジは、運転中は調整しにくいので専用のトミーバーとトミ−バ−回しを作りました。(写真5参照)トミーバーを直接手で回した方が圧縮の状態を感じられ易いのですが、操作はかなり固くて熱くなり、運転中は危険なのでなるべくドライバーを使って下さい。(写真4参照)両方とも模航研で入手できます。

 ブレークインについて

写真6
 始動の要領が分かったらマフラーを取り付けてブレークイン運転をします。マフラーを取り付けると圧縮ネジとニードルのセットが変わりますが、同じ要領で合わせます。メーカーが指定する8-6か9-5のプロペラで飛ばします。マフラープレッシャーを加えるとニードルの開度は一回半ぐらいになりますが、飛ばしながら圧縮とニードルの調節をします。IPN入りのMD25では地上で合わせた位置より圧縮を戻すようになりますが、RCD燃料では殆ど変わりません。実際、このエンジンはRCD燃料に好適で運転温度が高くならないので廃出油も黒くなりません。(写真6参照)
 実際に飛ばすことでピストンが熱膨張して良好なコンプレッションが得られます。これはAACピストンスリーヴとスリーヴテーパーの絶妙な組み合わせから来るもので、ベンチでいくら回しても良い当たりは付きません。良いコンプレッションが出るとより大きなプロペラを回せるようになります。

 飛行について

写真7
 写真7にあるムサシノ機のような軽ラジコン機にディーゼルを用いる場合は、エンジン自体に余裕馬力があるのでかなりラフな調整でもよいのですが、11CXDエンジンは元がレーシングクオリティーなので例題機のようなレーサーに載せて回転のピークを探すのも面白い事で、調整のポイントは地上での圧縮、ニードルのセットと飛行時との違いを見つけることです。グローエンジンよりずっと長い暖気運転をしないと離陸時エンストの危険があることに注意して、始動時にいちいち圧縮を上げたり、ニードルを開いたりしないでも良いようになれば、エンジンとあなた自身のブレークインが完了したことになります。 
 8-6プロペラを使った場合、同じぺラを15 %ニトロ燃料で回す同社のSS15BBエンジンより速い感じでした。

  用語解説
FAI F2C コントロールライン国際級の競技種目。ティームレーシングとも言う。
圧縮を上げる 圧縮ネジを右に回してカウンターピストンを下げる事。
トルクがある 同じ大きさのエンジンで回転数は同じ場合、より大きなプロペラが使えること。
飲み過ぎ エンジン内部に燃料が溢れている状態を意味する。本文では故意に行うオーバーチョークとは区別して使っている。
液体ノック シリンダーヘッド内部の燃焼室にオイルが溜まった状態でピストンが上まで上がって来る事。実機ではありえない。
ラップピストン リングが無い模型独特のピストン形状。
ヒートストレス 熱負荷のこと。模型エンジンでは各部のはめ合わせが微細であるため実機よりずっと低い温度でも歪みの影響が出る。
プライミング キャブレターなどに直接燃料を点滴すること。
チョーク キャブレター入り口を塞いで燃料を吸引させること。
スロットルレスポンス 絞り弁の開閉度に応じたエンジンの回転変化。すぐに反応するのが良いとされる。
エアブリード 本来はメインジェットに空気を送る事であるが、模型ではキャブレター本体にある低速回転時の空気導入穴を意味する。スロー絞り型のキャブレターには設けられていない事が多い。
AAC クロームメッキされたアルミシリンダーとアルミピストンの組み合わせ。

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